【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「うん。3人だけにしてくれてありがとう……お陰で、きちんと挨拶出来たよ」

カヤの言葉から何かを察したのか、ミナトは静かに問いかけて来た。

「……戻らないつもりか?」

その声色に、僅かに気遣うような感情が混ざっている事に気が付いてしまって。

「戻れないからね」

ほんの少しだけ、笑みが零れた。

(やっぱり、なんだかんだで優しいんだなあ)

そんな事に気が付いたのは割と最近だったから、それが酷く残念だ。
初めから知っていたら、もう少し違う間柄になれていたのだろうか。


ミナトはそれ以上、その事に関して追及はして来なかった。
ただ黙ってリンの手綱を握るだけ。

やがてカヤ達一行が村の門を出た頃、久しぶりにミナトが口を開いた。

「……なんでもかんでも蔑ろにする癖やめれば?」

まるで直前まで会話が続いていたかのような調子で呟かれた言葉に、思わず振り返る。

「ん?どういうこと……」

最後まで言い切る暇も無かった。

「―――走り出すぞ」

「えっ、……きゃあっ!?」

短く言われると同時、唐突にリンが速度を速めた。
油断していたカヤの背中はミナトの身体に思いっきりぶつかった。

村を出た瞬間、一気に全ての馬達が全力で駆けだしたらしかった。


「こ、こわっ、こわい!怖い怖い!」

ドカッ、ドカッ!と言う蹄の音と共に、先ほどとは比べものにならない程の衝撃がお尻から伝わってくる。

せり上がってくる恐怖にミナトの腕に必死にしがみ付いた。

「喚くな。舌噛むぞ」

「無理無理無理!ほんとに無理!」

言っている間にも、ぐんぐんと速度は増して、揺れも激しくなっていく。
周りの景色を見る余裕すら無い。

カヤは首を振りながら、死ぬ気でミナトに頼み込んだ。

「お願いっ、お願いだからもっとゆっくり走ってえええ!」

「置いていかれるから無理」

鼻で笑われた。

「帰りもこれだぞ。少しは慣れとけ、ノロマ」

しかも追加で悪口まで。

「ノ、ノロマッ!?あんたみたいな意地の悪い男に言われたくないんですけど!?」

「はい加速ー」

「いやああああ!?ごめんなさいごめんなさいッ!」


間違いなく、人生で一番声が枯れた日だった。

……ミナトめ。絶対恨んでやる。