【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「うん、勿論。ほとんど毎日付けてるしね」

元々自分の持ち物なんて少ないけれど、この腰巻だけは必ず持って行くつもりだった。

「わー、ありがとうございます。いっぱい使って貰えて嬉しいのですよ」

「そこまで気に入って貰えたなら良かったわ。落として帰ってこないようにしなさいよ?」

喜びが浮かんだ2人の顔を見て、カヤの顔にも偽りの無い笑みが浮かんだ。

それは、2人とは違う種類の笑顔なのかもしれない。
でも紛れもなく、昨日のハヤセミ達の訪問以来、初めてきちんと笑えた。

――――でもきっと、こんな幸福はもう二度と自分の元へは降りてこないだろうう。


込み上げる何かを隠すように、カヤは2人に抱き着いた。

「カ、カヤ?」

「……カヤちゃん?どうしました?」

両腕の2人が驚いたような声を上げる。
カヤは更に腕に力を入れ、囁くように呟いた。

「2人とも、本当にありがとう」

感謝の意だけを伝えて、サッと離れる。
本意を感じ取られたくなくて、わざと照れたように笑った。

「へへっ、ちょっと心細くなっちゃった。……じゃ、そろそろ行くね」

これ以上、自分をぬるま湯に漬けたくなかった。
小さく手を上げたカヤは、回れ右をしてその場を去ろうとした。


「――――カヤちゃん!」

が、その手首をナツナに捕まれる。
振り返ると、彼女は心配そうな表情を浮かべていた。

「……待ってますからね?カヤちゃんが帰ってくるの」

何かを悟ったような、けれど表立っては口にはしない。
ナツナの勘の鋭さと、その気遣いの良さを嫌という程知っている。

(最後の最後まで優しいんだなあ)

参った。離れたくなくなってしまう。


「……うん、待っててね」

一瞬遅れて大きく頷いた。


嘘だ。待たないで。
願わくばすぐに忘れて、たった一声さえも嗚咽を漏らさないで。

けれど、どうか。

(どうか、私が忘れずにいる事だけを許してほしい)


ナツナは何かを言いたげだったが、やがてカヤの手首を離した。
「いってきます」と声を上げ、今度こそカヤは二人から離れる。

一度も振り返らなかった。

ただひたすらに、向こうの方に居る翠とタケルの元へと向かう。
2人は既に馬に跨り、今にも出発しそうな様子だった。


「おい」

唐突に後ろから声を掛けられたカヤは、足を止めた。
振り向くと、そこにはリンに跨るミナトが。