【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

その背中を名残惜しく眺めた後、カヤはふと辺りを見回した。

出発する前に、どうしてもナツナとユタに会っておきたかったのだ。

チカータが入った袋を背中にそっと担いで、せかせかと動く屋敷の人たちの間を縫うように歩く。

2人はすぐに見つかった。
ミナトも含め、3人で薄黄色の馬に鞍を乗せたり、軽微な荷物を積んでいるようだった。


「ナツナ、ユタ」

小走りで近づくと、3人はカヤに気が付いたように手を止めた。

「あら、カヤ。おはよう」

「おはようございますですー」

ナツナとユタは走り寄るカヤに笑顔を向けてくれた。
たったそれだけの事が、どん底に近い体調を不思議なほどに和らげてくれる。

「おはよう」と挨拶を返したカヤの顔を見たユタは、ふと眉を寄せた。

「顔色悪いわよ。大丈夫?」

「本当ですね……体調悪いのですか?」

ナツナが心配そうに顔を覗き込んできたので、無理やりに口元を上げた。

「ううん。少し寝不足なだけだよ」

「さては隣国に行くのなんて初めてだから、緊張して眠れなかったんでしょ」

からかうように言ったユタの言葉に、口元に貼り付けていた笑いが少し引き攣ったのが分かった。

思わず、ミナトをちらりと見やる。
この場で唯一自分の正体を知っている彼は、まだ一度も言葉を発していなかった。


ミナトの眼がバチッとカヤの視線を捕らえた瞬間、

「……俺、リンを少し走り慣らしとくわ」

ぶっきらぼうにそう言った。

そしてミナトは俊敏に馬に跨ると、その場を離れていった。


「相変わらずあの馬の事を溺愛してるのねえ」

その後ろ姿を見ながら、ユタが呆れたように言葉を吐いた。

「私達を3人だけにしてくれようとしたのかもしれません」

ニコニコと笑ったナツナに「そうかしらね?」とユタが疑わし気に言う。

しかしカヤも、ナツナの言う通りかもしれないと思った。
嫌味の一つでも言われるかもしれないと覚悟していたが、ナツナとユタの前で何も言われなかった。

リンを走らせているミナトを眺めていると、

「ね、カヤ。ちゃんとタケル様を守って差し上げてよ?」

ぽん、とユタに肩を叩かれた。

真剣な調子でそんな事を言われ、カヤは「うーん」と首を捻った。

「出来るだけ頑張るけど……多分要らないと思うな」

「そうですよ、ユタちゃん。タケル様を倒せるのは大きな熊さんくらいなのですよ」

「し、失礼ね!」と赤くなるユタに、ナツナもカヤも思わず笑いが漏れる。

居心地の良いその空気は、今から待っているであろう結末を忘れさせてくれた。


(この場所を離れたくないなあ)

そんな事を考えたカヤに、ふとナツナが声を掛けた。

「あ、カヤちゃん。それ付けていってくれるんですね」

指さす先はカヤの腰元。
2人から祭事の日に贈って貰った太陽の色をした腰ひもだ。