「俺、結婚することになったから」

何も変わっていない。

相変わらずの無愛想な表情に、ファッションという言葉とは程遠いような服装。

彼女に最初に会ったのは十年前で、最後に会ったのは五年前だ。

「そんなこと言うためにわざわざ来たのかよ」

そして、男勝りの口調。

本当に何も変わっていないことに安心し、同時に不安のようなものも心の中に宿る。

「お前には伝えておきたい、って思ってな」

「はんっ。こっちはあの日お前に生かされてから毎日地獄だっていうのに」

初めて会った日、彼女はビルの屋上だった。

彼女は少しだけ心が不安定なだっただけだ。

その日から僕らは何度か連絡を取り合い、その度に会ってきた。

僕が彼女を守ると誓った日、それが僕らが会った最後の日だった。

「で、『おめでとう』って言ってほしいの?」

三年間連絡を待ち続けた。

その後の二年で別の女性を守ることを決めた。

その結果がこれだと思うと・・・

「・・・かもしれないな」

そう思えた。

「おめでとう」

即答に近い間合いで、棒読みの返事がきた。

そんな棒読みでも、不思議と胸の支えが取れた気がした。