「さて、りっかは、どうしたいの?」

 電気をつけて、北寺は優しく問いかける。

「私は……」

 どこか遠くへ、一日が始まる明け方前から、あらん限りの力で行けるところまで行きたいと、その時思いついた。

 それを告げると北寺は、「おれもついていっていいかな?」と、言ってくれた。

「来てくれるの?」
「うん、りっかが一人じゃ心配だよ。おれも力になれる気がするから。いいかな?」
「もちろん! あ、でも――」その手元には卵がある。「……これ以上迷惑をかけるわけにいかないわ」
「いいよ。転卵は、まあなんとかするさ」

 自動でひっくり返す装置か何かを作ろうかな、と、これまた愉快そうに北寺は言う。

「手伝ってくれても、私にはなにもない……。何もお返しができないわ」
「わかってる。それでも構わない。そうしたい一番の理由はね、今よりずーっと楽しそうだと思ったからだよ」
「楽しそう?」
「だって、それってすごい冒険じゃん。わくわくする」
「あ……あ、あはっ、やっぱり!? 北寺さんもそう思うわよね!」
「思う、思う!」


 ○


 こうして律歌の冒険は幕を開けたのだった。

 思い返すと、時間がかかったなと小さくため息が漏れる。だいぶ時間を使ってしまったと後悔する気もなくはない。それでも立ち直ったのだ。自分は。それは無駄な時間ではなかったように思う。そして今朝、北の果てを目指して出で立った。今はそれを喜ばなくては。律歌は自分を鼓舞する。

 自転車で走れる限り走った道のりと、見つけた地形を書き留めた、手書きの地図を広げて気持ちを切り替える。

「さて、作戦会議、始めましょ!」