私の、母はどんな人だったのだろうか。

 ふとそんなことを考えた。記憶がないわけではない。母親のことは覚えていた。でも、いつも家にいなかった。父もほとんどいなかった。二人とも必死に働かなくてはならなかった。そして、二人とも死んだ。過労死だった。

 生きていても会えなくて、甘えられなくてずっと寂しかったけど、死はまったく別の次元の悲しみだった。決定的な寂しさ。絶対的な孤独。死んだのだ。律歌の心は、光が何もないまったくの暗闇に閉ざされた。

 だが深い暗闇の中でこそ、誰も気づかぬような光に気付けることもある。

 それじゃあ私が、孤独じゃない世界に変えてやる。と――ようやく見つけた光。あの日から、私は燃えるように毎日を過ごした。野望を抱いていた。

 そうやって、生きていたことがあった。

「行かなきゃ……」

 それが、私だ。

「ん? どうしたの」

 律歌は顔を上げた。

 だから、なんとなく生きるしかなくなってしまった今、死にたくなるんだと気が付いた。

「北寺さん、ごめん私、行かなきゃ。私も孵化、見たかったな」
「りっか……」
「でも私は、私が生きると、いうことは」

 胸がいっぱいで、走り出しそうな、

「もっと、もっともっと広く、そうじゃなきゃ、私は――」

 はやる気持ちが込み上げる。

「そっか。りっかは、そうなんだね」
「うん」

 こんな風に安心して、丁寧に過ごすのも、とても大切だと思う。脅威が何もなくて、安心できる人が傍にいてくれるということ。すごく夢だった。だからこそ、離れがたかった。だってそれを勝ち得るために、自分は戦って、傷ついてきたのだ。

 ――でも私は、卵の中でずっと生きていたかったわけじゃ、ない。