訪れる暗闇。

 北寺は濡れた手を拭くと、テーブルの上に置いてあったスマートフォンを手に取りLEDライトをつけた。その白い光に、手作りの段ボール孵卵器から取り出したうずらの卵を一つかざす。

 小さくて硬い黒ぶち柄のうずらの卵は思ったよりよく透け、光を通した。

「赤いだろう?」

 北寺の言う通り、それは赤い色をしていた。

「血管が見えてるのわかる?」
「わかる」

 この細い線のことだろうか。

「それが生きてる証拠さ」

 脈打っている。

「うん」

 いつくしむように卵を抱く北寺に、母性を感じた。

「もうすぐ生まれてくるんだ」
「そうなんだ」
「うん」

 月は東に、日は西に。生まれいで、やがて死にゆく。

 ただそれだけのことに、この時、律歌は心打たれていた。それが何だというのだ、とは、とても思えなかった。