繰り返されていく日々の中に、楽しいことは、いろいろあるんだ。そう思わせてくれたのは北寺だった。だらだらと、とろけるように甘い、甘い日々をくれた。

 その日は三時のおやつにお手製のフォンダンショコラを振る舞ってくれたし、夕飯も作ってくれた。食事は注文すれば無料だが、北寺は料理すること自体を楽しむ目的でよく自炊しているという。ザーッと水で野菜を洗う音、トントンとリズミカルに包丁がまな板をたたく音。切れた野菜を鍋にぽちゃんと落とす音。背中越しでもわかる。料理をする彼は本当に楽しげだった。

 北寺の背中を、律歌はぼーっと見つめる。

 一方で律歌は、そのときはまだ、彼のようには微笑むことができずにいた。

「りっか、りっかも何かしない?」

 そんな律歌を、こちらも振り向かずとも見透かしたように、北寺に言われた。

 なんだかその時律歌は、責められているような気分になった。

「……じゃ、お皿洗うわよ。北寺さんの分まで」

「そんなことはしなくていいんだよ」

 しなくていいか。

「まあ、汚れたら天蔵《アマゾウ》で新しい食器をポチればいいしね」
「うん。まあそうだね」

 じゃあどうしたらいいんだろう。北寺さんは私のことが不満なのだろうか。