「そう?」
「うん」

 よく片付けられているリビングに通され、テーブルの上に段ボール箱をそっと置く。

「よし。りっかも、転卵やってみる? コロコロって。そっとね、そっと」
「転卵……? うん」
「こうやるんだ、見ててね」

 北寺は八つの内の一つの卵を人差し指で触れ、半回転させた。下になっていた面が上を向く。うずらの卵はどれも自ら動くことなどなく、じっとそのまま佇んでいる。律歌も指を出し、真似してみようと卵に触れた。硬く暗い模様をした殻――どきっとした。

「あったかい」

 生命の温度を感じた。

「うん。鳥の体温に近い状態を作っているんだ」

 ――ふうん。

「転卵しないとどうなるの?」
「孵化率が落ちる」

 卵をじっと見つめながら、ごく当然のようにそう説明をくれる。あまりにも淀みなく、気取った風もなく返すので、

「孵化しやすくなるの? どうして?」

 律歌はそう突っ込んで聞いてみた。