「少し前では、想像もつかないほどだよ」
「そう?」

 彼が指しているのは、きっと肉体のことではないのだろう。

「うん。このトマトを植えたの、覚えてるかな? りっかも一緒にいたよね」
「んー……そうだった、気もする」

 もぐ、とトマトとモッツァレラチーズを噛みしめながら。

「覚えてない?」
「覚えてるけど……ぼんやり過ごしていたから」

 脳裏を巡らせる。やはりひと月前の頃のことは、あんまり覚えていなかった。食べることも寝ることもできずに、涙をこぼし、しばらくすると泣くこともできなくなって、それで、何していたのだったか。何もしていなかった。太陽が東から昇り、西に降りていき、同じように月が出て、同じように沈む。それがなんだというのだ、と、そんなようなことを考えていた。あの時北寺が支えてくれていなかったら自分は今この形ではここにいられはしなかっただろう。自分は本当に少しずつ少しずつ気力を取り戻していった。北寺のおかげで。

 あの頃も、こうして北寺が勝手に来て、律歌をつっついて構っては帰っていく。そんな風にして日々が流れていた。