律歌を起こしたのは、みそ汁の匂いだった。天蔵《アマゾウ》に注文は、していないはずだった。自宅についたら寝室のドアも開けっ放しのまま、ベッドに倒れこむようにして寝たことは覚えている。

「もう、りっか、何時だと思ってるのさー?」

 階段の下から、北寺の声だ。足音とともに、だんだん近づいてくる。

「ごはん冷めちゃうよ~?」

 律歌が目を開くと、そのドアから、緑のチェック柄のエプロン姿の北寺が入ってきた。

「もう十一時だよ。さ、起きた、起きた」

 柔和な笑みが、温かい。彼の手で束ねられていくカーテン、差し込む光が強くまばゆかった。すごくよく寝た気がする。

「……ん。おはよ」

 夢でも見ている気分で半身を起こす。にっこりと微笑みをたたえた北寺が、そこに待っていてくれた。

「おはよう」

 こんな風に起こされるというのは、とてもいいものだと思う。一緒に住むことは、断られていても。

「すぐ……行くから待ってて」
「わかった。あと」

 北寺は肩につくかというほど長めの金髪を自分の手でつまんで、真上にあげた。

「りっかすごい寝ぐせ」
「んあ」

 たしかに前髪が視界に見えない。

「あとで綺麗にやったげるね」

 ふふふと笑いながら階段を降りていく北寺。どうやら律歌の髪の毛は今よっぽどひどいことになっているらしい。

 うむ。早く支度をして髪をやってもらおう。楽しみが増えた。