「嫌い、嫌いっ。北寺さんなんて!」
「ごめんねりっか」

 傷ついたような顔をして、ずるい。

「謝らないでよ! 北寺さんなんて大嫌いだもん」
「うん、うん、ごめんね……」

 手を握られた。優しく包み込むように――。その手を振りほどく。

「触らないで、もう!」
「……うん」

 自分から拒んでおいてそんな泣きそうな顔をされても、困る。

 傷ついているのはこっちだ。

 北寺さんは、私と同じようには、私を求めてはくれないのだ。

 律歌は立ち上がると玄関まですたすた歩き、着替えも荷物も置いたまま、

「じゃ、またね」
「うっ、うん……! りっか、また明日ね……っ!」

 振り返ると、階段と廊下を走って追いかけてきた北寺が、縋るようにもう一度念を押した。

「あの、お願いだから……、ねえ、明日も、来てね……?」

 その顔があまりにも必死の形相なので、つい、

「ふん。もう来てあげなーい」

 意地悪を言いたくなる。

「やだっ、やだよ!」
「じゃあ一緒に住もーよ」
「それは……ダメ」
「むう」
「だめだよ~、ふしだらふしだら。ね?」

 ごまかすように北寺は律歌の肩を掴みくるりと外を向かせる。

 これ以上突っ込んで聞いたら、この関係が壊れてしまうのだろうか。

 “そこまで好きじゃない”のかな。それとも――その瞳に映るのは私でも、心に映っているのは別の誰かなの?

 今日は、もう帰ろう。

「わかってる。そんなの当ったり前でしょ! 明日は朝四時集合だからねっ!」

 そして扉を閉める。

 それでも北寺さんはここに来ていいって、言ってくれる。少なくとも嫌われているわけじゃない。

 暗く寒い道がのびている。部屋着のまま一人きりで走って、もやもやした心を霧散させていく。

 私は一人なの?
 私は一人じゃない。

 明日も一人じゃない。だから――これを受け入れよう。