そのときドアが勝手に開いて、出てきた北寺と鉢合わせた。長身の彼を律歌が見上げる――と、彼は涙目になっていた。

「りっか! ……よかった……」

 こわごわと、脆いものに触れるように、律歌がもし嫌がったらすぐにでも止められるようなスピードで、彼は律歌の肩に手を触れされた。ぽん、とそれだけで、彼は「さ、中へお入り」と、リビングへ入るのを促した。

 薄緑色の絨毯の上を進み、窓からの暖かい陽に照らされる。

「うわあよく似合ってるね。サイズもいい感じ。かわいいよ。すごいすごい。かわいいなあ」

 北寺はそう言ってぱちぱちと手まで叩いてくれる。我が子が初めて二本足で立ったのを見た親のようなはしゃぎっぷりで。律歌はそれをぼんやりと見つめていた。


 それから、もうひと月あまりが経過した。あの時のことは、もうあんまり覚えていない。そう、今では――