ものの数分で出てきたほかほかの北寺に律歌は「お風呂借りるねー」と言って入れ替わる。シャンプーもコンデショナーもトリートメントも自分好みのブランドを置かせてもらっている。そして置いてある部屋着に着替えてそのままベッドイン。

「じゃ、おやすみ」

 寝室、やや硬質なマットレスに身を沈め、羽根布団にくるまりこんだ。そして北寺の方をちらりと見やると、

「ちょちょちょちょっと待って待ってりっか!」

 観念したように彼が駆けつけてくるのはいつものことだ。

「りっかー? はーい、ここ、おれのおうちだからねー、起きようかー」
「いいじゃん、ベッドでかいんだから!」
「そーゆー問題じゃないよー」

 ……いつもの、ことだ。

「でももう疲れて動けなーい」

 キングサイズのベッドの脇に膝をついて、北寺は寝そべる律歌に視線を合わせる。じっと目を見つめて。

 彼のそのいつもの困り顔を見ていると、律歌は胸がしめつけられたような気分になる。

「……はいはい、わかりましたよ。帰るわよっ」

 むくりと半身を起こした。

「送るよ」

 北寺は申し訳なさそうに手を差し出してくる。律歌はその手を取ると、腰を上げるふりをして思い切りそのままベッドに引きずり込んだ。

「わわわわわわわわわ」

 律歌の思っていたよりずっと容易く北寺は布団の中に滑り込んできた。律歌のスペースに、少しだけひんやり冷たい肌が入り込む。湯上りの体温が布団の中でさらに熱くなった。パジャマと薄手のパーカー越しに、二人混ざり合うように体温が移動し合う。心地いい。満たされる。安心する。

「私もあなたも疲れてるの……。仕方ないからここで寝かせなさいよ……?」

 眼前間近で囁いてみせる。

「やれやれ、仕方ない、な……」

 かかる息がこそばゆい。

「うん」

 北寺の長い前髪。金色の隙間からのぞく深いグリーンの瞳。その瞳に映る自分。

 ここにいるのは自分一人じゃなくて二人なのだ、二人で生きているのだと、全身で感じられる。

 眼差しは、ほてり頬の律歌を愛しさで包み込むように慈愛に満ちて優しげで、どこか、大人びていて、

「おれが……ソファで寝るしかないか」

 ほんの少しだけ、冷たい。

「……っ!」

 律歌は両腕を突っ張ると、布団を蹴って起き上がった。