北寺の家に着いた時には夜の八時を回っていた。

「ついたっ、つ、ついたー……」

 幸いにも雨に降られることはなかったが、田舎道は真っ暗で、自転車にはライトもなく(二百万円のくせに不便だ)、闇から逃げるようにして走り続けた律歌は玄関のドアを閉めた瞬間ごろりと廊下に倒れこんだ。

「り~っか~、じゃ~ま~」

 ぴょんと迷惑そうにまたいで律歌を越えていく北寺。彼に対してリアクションを取る体力も律歌には残っていなかった。

 ここを出たのが朝の六時半ごろだから、十二時間以上走っていたことになる。途中、井戸端会議に参加したり、石油騒ぎに野次馬根性を発揮したりしたものの、今日一日の大半は自転車の上にいた。

「北寺さん、私ここで寝るから」

 一歩も動きたくない。廊下のフローリングにぴたりと頬をくっつけながらそう思った。

 既に上半身裸になっている北寺は、洗面所からひょいと顔を出して呆れ果てたようにため息をついて、シャワーを浴びに行ってしまう。彼も彼なりに疲れているのだろうか。自転車も手荷物もすべて投げ出した状態のまま、律歌はその水音を聞くともなしに聞いていた。