「それでは私、天蔵《アマゾウ》カスタマーサービスセンター、添田が承りました。失礼します」

 ガチャ。

「あっ」

 切られた。

 ツーツーツーと電子音が続く。

「あーもう! なんなのよ、あのカスタマーサービスはっ。ガソリンなんてなくても生活できるだろですって! 無駄なことはするなと言わんばかりに!」

 文句を言わず、天蔵サービスをただ享受していろと言われているようにも取れる。

「むっかつくわ! よし、もう一度かけてみようかしら!!」
「ちょっと待ってりっか」

 北寺は少し考えて言った。

「天蔵《アマゾウ》に頼むのはあきらめよう」
「どうしてよ」
「なんか、引っかかるんだ」

 空が急に暗くなってきた。なんだか雲行きが怪しい。太陽が引っ込んで、厚い雨雲が空を覆っている。

「ガソリンなんてなくても、生活できるでしょう、って……裏を返せば、生活に必要なものは、天蔵《アマゾウ》が支給している、ってことになるよね」

「……?」

 遠くで雷の音が聞こえたような気がした。

「言われて、よく考えるとさ、おれたちは一応、生活に必要なものをいただいている立場なんだよ」

 そう言って北寺は、薄暗い天を見上げた。

「わからないけど、彼らには逆らわない方がいいんじゃないかな」

「う」

 それは想像するのもぞっとする話だった。

 天蔵《アマゾウ》から何も売ってもらえなくなったら、どうする?

 そうしたらそれこそ、こんな場所でどうやって生きていくんだ?

 律歌は肌寒さを感じリュックサックからカーディガンを取り出して羽織った。