臭いも消え、鼻の感覚が戻るころ、律歌達は見晴らしのいい丘に上がって遅めの昼食を取った。早朝から活動してお腹はすいていたものの、あの化学的な激臭と黒ずんだサンドイッチを目撃してしまったせいでなかなか食べる気にならなかったのだ。

 一面に広がる黄色い菜の花畑のおかげで気分が入れ替わり、カロリーを摂取できた二人は自然とそこからは無言のまま、疲れてきた体に鞭打ってひたすら北へまっすぐにただただ走り続けた。このままどこまでいけるのだろうという好奇心だけが、それぞれのペダルを動かしていた。

 その足が止まったのは、

「この先、山だね」

 木々が多くなり、遠くに見えていた山が近くなってきて、ついにそのふもとに到達したときだった。

「どうする、りっか。登る?」

 久々にしゃべるような感覚で律歌も口を開く。

 「時間は?」

 疲労感はあったが、まだ走れる。だが帰り道の分の体力も考えなくてはいけない。いざとなってもタクシーを呼ぶことはできないのだ。

「りっかがまだ大丈夫なら、もう少しだけなら進んでもいい。でも、山を完全に登ることは無理かもね」
「途中で引き返すことになる?」
「そうだね、たぶん」

 律歌はなんとなく出鼻をくじかれたような気分で自転車を降り、疲労した筋肉を伸ばすようにして山のふもとをぶらついた。途中で時間切れになるとわかって山を登るのは精神的にしんどいものがある。