自転車をキロキロと引きながらこっちに向かって歩いてくる足音がした。

「りっか、もう、どうしたの。大丈夫?」

 北寺が視界に入り、日を遮る。推し量りかねているように戸惑うその顔に、律歌はからっと笑ってみせた。空に向かって言う。

「こうしたくなっただけ」

 北寺は、自転車を倒さぬよう器用に体で支えながら律歌の横に腰を下ろす。そしてそのままリュックからペットボトルを取り出し、スポーツドリンクをごくごく飲み始めた。北寺の存在を感じながら、律歌はつぶやいた。

「ここにずっといたっていいんだよね――」

 北寺は「うん」とペットボトルを差し出してくれる。律歌は半身を起こし、受け取って飲んだ。しょっぱくて甘かった。キャップを閉めて、返す。

 ずっとここにいたっていい。

 律歌は立ち上がった。

「いこっか」
「うん」

 北寺も立ち上がると、投げ出されたようにして倒れている律歌の自転車を、空いている方の手で起こす。それぞれサドルにまたがって、地面を蹴る。