「まあ、ほら、別にあんたにどうしてもあげたいわけじゃないけどさ、彼女の義務みたいなことあるじゃん? 仕方ないから買ってきたわよ」

はい、と手渡すと、蓮見が少し眉を寄せた。
ちらりと私を見てから、「開けるぞ」と言って包みをほどく。止める間もなく、一粒取り出して口の中に放り込んだ。

その瞬間、「うえ」と顔が歪んだ。

「なんだこれ。見た目だけで凝ってて、味は適当だな。まずい。それに甘すぎる」

私は思わず、「はあ!?」と声を上げた。

「貰ったくせにまずいとか言うな! デリカシーないな!」

怒りを露にする私を気にするふうもなく、蓮見は「これいくらだった?」と訊ねてきた。唖然とするほど無神経だ。

「普通もらいものの値段聞く…?」
「知りたいからだよ。教えろ」
「…五千円ですけど?」

蓮見は「ふん」と鼻で笑った。

「高級感漂わせた包装と価格帯からすると、三十代から四十代の男に渡す女が購入することを想定してるようだが、それなのにこんな甘ったるい子供だましの味にするとは、マーケティングが甘い。この店はよくないな」

私はがっくりとうなだれた。

「あのねえ…仮にも彼女からのバレンタインチョコもらって、マーケティングとかよくないとか! 無神経にも程があるでしょ!」
「そうか? むしろ優しいだろ」
「はっ!? どこが!? 全く優しさのかけらもないですけど!?」
「お前が今後、誰かに手土産とか買う時ここの店では買わないほうがいいって、親切にも教えてやったんだよ」

物は言いようだ。こいつにはデリケートな女心なんてこれっぽっちも分からないのだ。

「ていうかお前、今までの彼氏にも全部買ってたのかよ」

蓮見がチョコの箱を鞄にしまいながら訊ねてきた。

「そんなわけないでしょ。ちゃんと作ってたわよ」

そう答えると、明らかに不機嫌な顔になる。