10年振りの再会を果たして、10年越しの恋を終わらせた日から数日が経った。

ようやく完成した物語を印刷して、ばらばらにならない様に大きめのクリップで挟む。鞄に突っ込むと玄関を出た。

雨が降っていたが、気にせずに傘をさして歩き始める。柄にも無く緊張しているのが自分でもわかった。

明らかに鼓動が大きくて早い。

悪くない気分だった。

視界にいつもの木を捉えてすぐに、人影がある事に気が付いた。傘のせいで顔は見えていないが、誰かは確信している。

数メートル先にある傘に向かって俺は声を掛ける。

本人を前にその名前を呼ぶのは初めてだな。

「華月」

俺が名前を呼ぶと傘はクルリと回って、隠していた顔を俺に見せた。