「あ、あの......」
「人が多すぎるから移動しよう。香織ちゃんのこと、見世物にしたくない」
いつのまにか集まったギャラリーをかき分け、空き教室を探す。
そして、ちょうど用事があって鍵を持っていた資料室へとたどり着いた。
中に入って、内側から鍵を閉める。
「ねえ、さっきの......ほんと?」
香織ちゃんの目をじっと見つめながら、そう聞いた。
綺麗な瞳が、動揺したように揺れている。
「香織ちゃん。もう一回、ちゃんと聞かせて?」
待てもできない男だと思われるかもしれないけど、今はその言葉だけが欲しくて必死だった。
香織ちゃんが、ゆっくりと口を開く。
「好き......です」
自分で聞かせてと頼んだくせに、いざ言われたらなにも言葉が出てこなかった。
こんな幸せなことが起きるなんて、想像もしていなかったから。
香織ちゃんが僕を好きだなんて、両思いになれる日が来るなんて——幸せすぎる事実を噛み締めずにはいられなかった。

