「北條先輩、あの」
「ん?」
「ありがとうございます。遅くまで付き合ってくれたのと......先生にあんなふうに 言ってくれて」
心無しかその顔が赤らんでいるように見えたけど、薄暗くてはっきりとはわからない。
お礼なんて、必要ないのに。
でも......。
「どっちも僕が勝手にしたことだから、気にしないで。行こう?」
素直な香織ちゃんが可愛くて、緩む頬を抑えられなかった。
「ありがとう」という誰もが使う言葉さえ、香織ちゃんから紡がれると特別なものに聞こえる。
こんなにも可愛く言えるのは、きっとこの世で香織ちゃんくらいだろう。
「外もう真っ暗だね」
靴を履き替えて校舎から出ると、さっきまで辺りを赤く染めていた夕日がすっかりといなくなっていた。
「そうですね」
やっぱり、一緒に残っていてよかった。
「香織ちゃん家どこ?よかったら送らせて」
こんな真っ暗な中、香織ちゃんをひとりで帰せない。

