伊澄にも言った通り、明李さんとは相変わらずだった。前よりずいぶんと距離は縮まったように思うが、恋人には程遠い。



 ある日、大学内のメインストリートを歩いていると、前方に明李さんを発見した。黒い髪が太陽の光を反射して麗しく光っている。後ろ姿を見ただけで胸が高鳴った。恋の病は順調に、僕の全身を蝕んでいるようだ。



 声をかけようとして歩み寄った僕だったが、近くまで来て動きを止めた。男が現れ、明李さんに声をかけたのだ。

 その場で二、三言交わすと、明李さんと男は、楽しそうに喋りながら歩き出した。



 わかっていた。明李さんは僕とは違って、他にも仲のいい友達がいる。理解していたつもりだったが、事実として突き付けられると、思ったよりもショックは大きかった。



 今までそういった姿を目撃しなかっただけで、明李さんの世界は僕よりもずっと広いのだ。

 何の取り柄もない根暗な男と、欠点の見当たらない完璧美少女が結ばれるのは、フィクションの世界だけだ。現実はそんなに甘くはない。



 明李さんの隣を歩くその男は髪を茶色くしていた。チャラチャラした印象はなく、お洒落だと思ってしまうような控えめな染め方。身長はそれほど高いわけではないが、体型はすらりとしている。服も、ファッションに無頓着な僕が見てもセンスのある着こなしだと思ってしまう。



 横顔だけでもわかるような整った顔に、人懐っこい笑顔を浮かべて、隣にいる明李さんに話しかけている。

 男はいわゆる、爽やかなイケメンだった。



 僕はどうあがいたって勝てそうもない。

 二人が並んで歩く姿はとてもお似合いだった。

 結局声はかけられずに、明李さんたちの数メートル後ろを、わざと歩調を緩めて歩いた。