「……あれ? どうしてこんなところにいるんだっけ」

 夢から覚めたような感覚。軽いめまい。

 いつも昼食を食べている小屋の中に、僕は一人で立っていた。



 さっきまで、食堂で明李さんとご飯を食べてて……。

 予想外の事態。告白。

 初めての恋人は、僕なんかとは釣り合わないような、とても素敵な女性。



 断片的な情報をかき集めて、記憶を形作かたちづくっていく。しかしどうしても、隙間に入るピースが見当たらない。

 失われた何かを探しながら、両手で固いものをつかんでいることに気づく。



 手に握られていたのは白い石だった。

 高校三年生のときに拾い、巾着に入れてお守りに入れているはずだった。その石が今、僕の手の中に存在していた。



 そうだ! 僕はこの場所で――大切な誰かと出会ったんだ。

 決して長くはないけれど、密度の高い時間を過ごして。

 だけどついさっき、離ればなれになって。

 名前も、どんな声だったかも思い出せない。



「やっと見つけた」

 その声のした方へ視線を移す。小屋の扉が開いていて、明李さんが覗き込んでいた。