〜弱いお母さん〜

由梨の言葉が私を安心させた。

でもだから、その日は少しだけ注意散漫になっていた。

「お母さんお帰り。」

「ただいま。」

いつもより低く響くその声に私は体を強張らせた。

「お仕事お疲れ様。今日は私がご飯作るよ。」

「いいよ。」

やっぱりそうなんだ。
今日は良くない日。

「いいって、疲れているんだから。」

私は出来るだけ明るく言う。
言葉を少しでも間違えれば、母はすぐに声を荒げるだろう。

母は心が多分人より弱い。
仕事で疲れれば何かに当たりたい。

「なに作る予定だった?」

そう私が聞いたとき、母の何かの糸が切れた。
私にはもう、その糸が見えないはずなのに、はっきりと切れたかどうかわかるのだ。

「私が作るって言ってるんだからいいの。」

母は声を荒げてそう言った。
こうなったら手のつけようがない。

私は泣く母の背中をさする。

「お母さん、お仕事で何かあった?」

私は母に向かって子供をあやすような口調でそう聞いた。

「郡さんがね。私は使えないって。

それでそれでーーーー。」

そして話し終えると、母は泣き疲れてそのまま寝ていった。