百鬼夜行は毎夜行われる。

庭に集まった百鬼たちをまとめ上げているのは実質氷雨であり、彼らの悩みや不満などを聞いて不安要素を排除することも多い。

泉は毎日晴明の治療を受けていて、徐々にではあるが体調が回復していることを喜んでいた。

そして如月の兄である朔の恐ろしいまでの吸引力に舌を巻いて、鍼治療を受けながら笑った。


「あんなに優れた兄が居たら離れ難かっただろうね。主さまに欠点なんかあるのかな」


「ある。雪男だ」


「え、そうなの?」


「私たち兄弟は全員雪男の手によって育てられたようなもの。特に朔兄様は次期当主として最も多くの時を雪男と過ごした。父であり兄のような存在である雪男は朔兄様にとって唯一無二の存在なんだ」


…そう言われれば、朔は無理難題を氷雨に吹っ掛けては困らせている。

氷雨にだけは暴君のような態度で、氷雨もまた呆れつつそれに対して一切怒ったりはしない。

甘えているのだと言って笑った如月は、氷雨に朧を娶らせた経緯を思い返して茶を啜った。


「側近とは言えいわばただの百鬼のひとり。雪男をいかに長い間引き留めることができるか…うちの者を嫁にやるのが最良の策。様々な根回しをした結果がこれというわけだ」


「あのふたりは見ていて本当に微笑ましい気持ちになるよ。如ちゃんもそうでしょ?」


「もちろん。朔兄様にとって雪男は唯一甘えられる存在であり、朧は奇跡を体現させた偉大なる妹。ふふ、私の一家はすごいだろう」


身体がぽかぽか温まってきた泉が手を伸ばすと、如月はその指をきゅっと握って顔を近付けた。


「子ができるのは私たち夫婦の方が早いか、雪男夫婦が早いか…競争だな」


「そこ競うところかなあ?僕は如ちゃんが今とても楽しそうにしてるからそれだけで幸せだよ」


花吹雪が部屋に舞い込んできて如月の髪についた。

美しい妻の顔にやわらかい笑みが上り、ふたりで様々な話をしながら朔の帰りを待った。