通常は幽玄町から出撃する百鬼たちだが――朔が能登に滞在すると決めたことで、能登から百鬼夜行に出ることとなった。

彼らにとっての主はもちろん朔なのだが、側近であり朧を嫁に娶って縁者となった氷雨が傍に居ない朔はどこか寂しげにしていたため、不満を言う者は皆無だった。


「お前は如月が子を宿すまで滞在する気か?」


「いやいやさすがにそこまでは。朧が満足するまでって感じかな」


「ふうん、じゃあ長引いた時はお前が朧を満足させることができなかったってことだな」


「う…頑張ります…」


夕暮れ前に氷雨と朧を伴って能登周辺を見て回っていた朔は、各地に点在する妖の集落に寄って彼らを驚かせていた。

まさかこんな田舎に…とざわつく彼らを尻目に普段目の届かない場所に顔を出しては遠巻きに見られていたのだが、これについては大事なことだと氷雨は思っていた。

百鬼夜行とは、妖が妖を制裁するという誰から見ても理不尽な行いだ。

人に仇為す妖のみが対象とは言え同士を――と反感を持つ者も多く、だが朔の背筋が粟立つような美貌を目の当たりにして、そういった感情が消し飛んでしまう。

容姿の美しい妖はとても強く、それが人型であれば、もう無敵に等しい。

そんな朔の傍には同じく白と青の調和が美しく、絶えず辺りに目を配っている氷雨が居る。

そしてその隣には、切れ味の鋭い美貌ながら氷雨に向ける笑顔が可愛らしく、袖を握って離さない朧が。

顔ぶれからすぐに百鬼夜行の主だと知られたわけだが、そうすることで百鬼夜行への不満やもしくは興味を持ってもらうことは大切だ。


「どこの集落も問題ないな。如月の目が行き届いている」


「帰ったら褒めてやれよ、すげえ喜ぶと思うから」


「何かお土産を買って帰りましょう、お団子とかっ」


「知らない所に行くのは楽しいな。これからちょくちょく出かけよう」


「ちょちょちょ、ひとりで行くなよ!俺も一緒に行くからな。…返事は!?」


返事をせず無視してすたすた歩く朔に追い縋る氷雨。

ちゃんと寝たり食ったりしているのかという心配はせずに済むが、これはこれで…とため息をつきつつも、氷雨は朔の首根っこを摑まえてぽかりと頭を叩いて朧を笑わせた。