朔が銀たちと共に百鬼夜行に出ると、屋敷の留守を任されている氷雨は首を鳴らして縁側にどっかり腰を下ろした。


「お師匠様…怒ってる?」


「は?なんで?」


「だって私さっき我が儘言っちゃったから…」


手には徳利と盃がふたつ乗った盆を持って少し途方に暮れている顔をしている朧を手招きした氷雨は、徳利を受け取って庭に目を遣った。


「あんなの我が儘に入んねえよ。第一あれだろ?百鬼夜行の間は天満ん家に残るんだろ?」


「ついて行きますけど」


「えっ?いやいや…主さまも俺もお前が気になって満足に戦えねえよ」


「私!ちゃんと父様に稽古をつけてもらいましたから!時々朔兄様にも稽古つけてもらってますから!」


――朧は幼い頃、駄々をこねて十六夜から刀術を習っていた。

その太刀筋は確かなもので、朔に自分が嫁に恵まれなければ朧に次代を任せてもいいと言わしめたほど。

朔から銘入りの刀を譲ってもらっていたのは知っていたが…


「飯事じゃねえんだぞ?お前に殺せるのか?」


「私だって鬼頭家の娘。朔兄様のお力になりたいんです。あとお師匠様が浮気してないか監視するためっ」


「浮気なんかするか。お前さあ、祝言挙げたのこの前だぜ?この前お前を諦めようとして北へ行った俺を追いかけて来たのはどちらさんだっけ?」


唇を尖らせた朧は、氷雨の膝に上がり込んで真向かいになると、その白く長いまつ毛に触れてか細く呟いた。


「私ですけど。だってお師匠様女遊びすごかったんでしょ?逸話だってたくさん父様とか朔兄様から聞いてるんですからね!」


「はああ?あいつら余計なことを…」


雪男は同じ種族の雪女であれば例え心が通っていなかったとしても抱いて溶けることはない。

女遊びなんてしていませんとは言えない氷雨は、徳利ごと口に持っていて酒を含むと、朧に顔を近付けて期待に僅かに開いた唇に唇を重ねた。


「女遊びは絶対しません。こんな若くて可愛くて美人な嫁さん貰ってするわけねえだろ」


「でもなんとかは三日で飽きるって…」


「それ自分で言うのか?ばーか、飽きるか!ちょっとお仕置きしてやる。来い」


朧を抱えて立ち上がった。

首に腕を回してしがみついてきた朧が可愛くて、廊下を歩いている間も何度も口付けを交わして止められなかった。