いつもの狩衣と烏帽子姿の晴明は、朧から丁寧に聞き取りを行った後薬箱を開いた。

中には様々な薬草や粉などが入っていて覗き込んでいると、その中からすり鉢とすりこぎ棒を取り出していくつかの薬草を入れて潰し始めた。


「お祖父様…これは?」


「これは月のものの痛みが和らぐ薬湯だよ。息吹にもよく作ってやっていたのだけれど、体質は似るものだねえ」


「そうだったんですね…」


「けれど子を産んでから痛みが無くなったそうだから、朧もそうだといいねえ」


目を輝かせた朧に煎じた薬草を白湯に入れて飲んでいるうちに、晴明はいくつかの粉を混ぜて紙に包んで持たせてくれた。


「これは身体が冷えぬようにする粉薬だよ。月のものが終わるまで毎日欠かさず飲みなさい」


薬湯は早々に効果を発揮して痛みを無かったことのようにして朧を驚かせた。

氷雨は煎じている様をじっと見ていたのだが――その中から薬湯の素になった薬草を素早く拝借すると、晴明の肩を馴れ馴れしく抱いて眼前で薬草を揺らした。


「痛くなった時俺が作ってやるからちょっと貰うぜ」


「ふむ、まあ良いだろう。そなたは私の身内となったのだから手解きしてあげよう。さあじっくり教えてあげるから正座しなさい」


「ははは…お手柔らかに…」


「お師匠様、頑張ってっ」


…増えた身内は悉く一癖も二癖もある者ばかりで、言われた通り正座して講義を聞いていると、朔が顔を出しに来た。


「お祖父様」


「おお朔、さあさあこちらに来なさい。そなたが好みそうな本を持って来たよ」


「ありがとうございます」


朔も晴明の前では孫らしい顔を見せる。

孫と言っても血が繋がっているわけではないのだが、それでも結束は強く固く、氷雨が講義を受けているのを朧と眺めた後、皆で炬燵に入って団子を頬張りながら世間話をした。

人側に立って人を助けてゆくと決めた半妖の晴明は平安町に住んでいるため、普段聞けない面白い話を沢山知ることができる。


「さて次は何の話をしようか」


「今平安町で流行っているものを教えて下さいっ」


朧の華やかな声に男たちはでれでれしながら団子を頬張り続けた。