雷を落としたものの、顔を上げた朔の目もつぶれるような美貌は全く堪えた様子はなく、しっかり手を握っている様をちらりと見て末妹に笑いかけた。


「おはよう。台所から団子を拝借してきた」


「朔兄様に食べてもらおうと思って作ったからいいですよ。わあ、だいぶできてますね」


朔の膝に徐に座った朧は、もう随分出来上がってきた家に目を輝かせた。

兄妹ふたりして団子を頬張ってある意味眼福ものの光景だったが、氷雨は決して忘れない。

朧の脇をひょいと抱えて取り戻すと、朔の頭の天辺に軽く拳骨を落とした。


「俺がなんで怒っているか端的に述べよ」


「ここは俺の結界内だぞ。ぎんも居るしお前も居るし、何か起こるはずない」


「その油断が危ねえっつーの。いいか次にまた勝手に行動したら…もごっ!」


さらにがみがみ叱ろうとした時、口に団子を突っ込まれて喋れなくなると、朧が竹筒に入った茶を手渡してくれて一気に飲み干した。


「ところでさっきも朧と話してたんだけど…この家…広すぎじゃね?」


「どうせぼろぼろ子ができるだろうからこれ位がちょうどいい」


「できねえよ。息吹じゃあるまいし」


「ふうん、俺の妹が可愛くないのか?お前に妹を嫁がせたのは間違いだったかな…」


「は?」


隣の朧に袖をくいっと引かれて見下ろすと――こちらはこちらでとても悲しい顔をしていて、ため息をついた方を見ると、こちらはこちらで目が据わっていてとてもやばい雰囲気。


「あ、あの…冗談…だよな?」


「俺の妹、可愛いだろう?」


「もちろん!お義兄様!」


「じゃあこの部屋数で問題ない。さあ、そろそろ戻ろう」


「朔兄様、ご飯作るから百鬼夜行の前に食べて行って下さいね」


「ん」


朧は朔に肩を抱かれて顔を見合わせると、氷雨に見られないようふたりしてぺろっと舌を出した。


兄の氷雨いじりは年季が入っているため、どんどん巧妙になっていく。

それは愛ゆえのことだが肝心の氷雨は――まだ団子にむせていた。