氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】

「よし、じゃあ行くか」


その日、四人が幽玄町を発とうとしていた。

それぞれの息子や娘に見送られて寂しがられてなかなか出発できず、後ろ髪引かれる思いで屋敷を後にして皆で笑っていた。


「そういや先代、先々代には俺たち四人で発つこと言ってあるのか?」


「言ってないし、どこに居るのか詮索するなって言われているから捜してない。大体お前を連れ出して旅に出たって言ったら呆れられる」


「ははは、ま、そりゃそうだろうな」


「あとその先代とかいう呼び方はやめろ。ちゃんと名がある」


ほら出た、と内心思った氷雨は、朧と顔を見合わせてついて行くと言って聞かない猫又の背で毛並みを撫でてやりながら小さいため息をついた。


「朔、だろ?分かった分かった。旅に出た以上先代って呼び方したら狙われるかもしんないしな」


空は晴天。

時折吹く天つ風に髪をなぶられながら気の向くまま駆けて、初めてかもしれない解放感に爽快な気分で二匹目の背に跨っている朔を振り返った。


「で、どっちに向かって何すんの?」


「決めてない。道中人が襲われていたなら助けて、寄りたい場所があったら寄ってのんびりする。それが旅だろう?」


――氷雨と朔共々、もう何にも縛られていない。

何やら奇妙なことになってしまったけれど、思えば今までずっと朔には振り回されてきたし、朧にも振り回されてきた。

どうせならふたりとも目の届く場所に居てくれる方が助かるし、やっぱり自分は世話焼き体質なんだなと自身に呆れつつ、まだ海しか見えない地平線をびっと指した。


「よし、じゃあとりあえずあっちの方!」


「お前が決めるな」


そう言われつつも朔が猫又を寄せてきて隣り合うと、速度を上げた。


「お師匠様、これから何があるんでしょう、何が起きるの?」


「さあなー!ま、何が起きても俺と朔が居るから心配すんな!」


「心配なんか全然してません!」


空高く吹き上げる風――天つ風が心地よく、目を閉じて耳を澄ますとと朔たちには聞こえない笑い声が聞こえた。


「飛ばすぞー!」


氷雨の楽しそうな声に兄妹はひそりと笑い合い、空を行く。

これからまだ続くであろう長い生を最期まで共に在れることを願いながら、空を行く。


【完】