朧に悪阻が始まった頃、晴明が望を連れて屋敷にやって来た。

久しぶりに望に会った朧は、泉に連れて行くまで成長が速かった望が、晴明に引き取られた頃からほとんど変わっていないことに驚いて、望の頭を撫でた。


「お祖父様…あまり変わってませんね」


「そうだとも、この子はもうほぼ人だからね。そこでそなたたちに話があってやって来たんだよ」


「なんですか?」


望も朧と会えて嬉しいのか、すぐ朧に膝に上がってくつろぐと、晴明は言葉を選ばず集まった孫たちに話し始めた。


「この子を人にしてしまったのは、私たちの豪なのだ。故に私たちは望の成長を見届け、彼が生涯を全うするまで見守らなければならぬ」


「ということは…望は…」


「半妖と言えど、もう妖ではない。この子には人としての寿命しか残っていない。数十年でその生を終えるだろう」


――朧たちも半妖だが妖の血が濃く、晴明は彼らが産まれた時に妖と同等の長い生を得ていると断定した。

いくら朧の命を救うためとはいえ、そのために望の長かったであろう生を犠牲にしたことに対して顔を背けていたわけではないけれど、その事実を突きつけられた朧は、望をぎゅうっと抱きしめて唇を噛み締めた。


「ごめんね望、私のせいで…」


「父も母も居らず、力の行使を学べなかった環境に置かれていた望はそなたしか頼れる者は居なかったのだ。無意識に力を行使した結果、こうなったのだ。朧、罪は皆で共有しよう。それにそなたが悪いのではなく、私たちが悪いのだからね」


朔や氷雨が揃って頷き、あの時瀕死で何の選択もできなかった朧を救うべく自分たちが望を犠牲にしたことは忘れてはいなかった。


「幸せな生を過ごすことができるよう尽力します」


「私が預かり、息吹を育てたように慈しんで育てよう。心配いらないよ」


朧はそれからというものの、足繁く晴明邸に通うようになった。

臨月を迎えて大きな腹になってからも我が子のように望を愛しんで会いに行き、仮であっても母として望を愛した。