流水の心臓は少しずつ凍り、最終的には立ったまま絶命した。

氷雨は雪月花を消すと流水をゆっくり草の上に横たえさせて拳を握りしめた。


「笑ってる。幸せそうだな」


「選択肢はこれしかなかった。このまま生かしていたらさらに狂って主さまや望を襲ったかもしれない」


「望…望?」


望が急に火がついたように泣き出してもがき、朧の腕から這い出て流水の腕を小さな手で掴んで揺すった。

…天涯孤独になったのを本能で感じ取ったのか、先程まで怖がっていたくせに、流水の骸にしがみ付いて離れず、朧は涙声で望の髪を何度も撫でて落ち着かせようとした。


「望…大丈夫だからね、私が傍にーー」


「その件だけれど、望は私が預からせてもらおうかな」


事態を静観していた晴明の突然の申し出に皆の視線が集まり、当の本人は微笑を浮かべてゆったり腕を組んだ。


「鬼憑きとしての力はないかもしれぬが、子を宿している朧の心痛にはなり得る。ちょうど私も使いをしてくれる式ではない者を探していたからちょうどいいと思ってね。どうかな朔」


「俺はいいですけど、雪男、お前はどうする」


実の子が産まれれば別け隔てなく育ててやらないかもしれない不安はあった。

初産で今から精神的にも不安定になるであろう朧を慮った氷雨は、朧の背中を撫でて言い聞かせた。


「晴明の屋敷に行けばいつでも会える。望の経過も気になるし、晴明に預けるのが一番いい。な?」


「はい…。でも数日でいいから傍に居たいです。これじゃこの子が可哀想で…」


「それは構わぬよ。この子はもう大した力は持っていないからね。さあ、おいで」


晴明が望に手を伸ばすと、泣き続けていた望はぐずりながらも手を伸ばしてその腕に抱かれた。

角はもう完全に無い。

望の新たな生が始まる。