こんな未来があったならばどんなに良いだろうかーー


流水は、人と妖が共存し合うあの町でーー幽玄町で、親子三人で暮らしていた。

綾乃に倣って一日三食を共にして昼間はだらりとは過ごし、夜は…


「綾乃、子と…望と家を頼む」


「はい。流水さん、百鬼夜行のお務め行ってらっしゃい」


うん、と頷いた流水は、綾乃の腕に抱かれて瞬きもせずじいっと見つめてくる望の額に生えている角を優しく撫でた。

うっとり目を閉じる望と笑顔で見送ってくれる綾乃を残し、百鬼夜行に加わって毎夜人に仇を為す妖を粛清して行くーーその目線の先には、百鬼夜行の主と隣に立つ氷雨の姿が在った。

手柄を立てれば百鬼夜行の主ーー朔により近い位置につける。

そうなれば支給される金や価値のあるもの、望む物も与えてくれる。

綾乃が生きている間は贅沢な暮らしをさせてやりたい。

流水は出世して朔と氷雨の背中を追い続けた。


「流水さん、お帰りなさい」


朝方戻ると出迎えてくれた綾乃と共に縁側に座って雑談をした。

この時間がとても楽しくて、愛しかった。

起きてきた望を膝に乗せて朝餉を食べて、眠らずに待っていた綾乃と共に三人で一緒に寝るーー

こんな幸せな時があっていいのだろうか?


「流水さん?泣きそうな顔してる。どこか痛いの?」


「いや…幸せだな、と思っただけだ」


「私も幸せ。このままずっとこうしてたいな」


「そうだな」


不意に、このまま眠りにつけば目覚めないのではという不安に駆られらた。

けれどすうすう寝息を立てている綾乃と望を見ているうちに、流水もまた微睡みに捉われて、目を閉じた。


「ありがとう」


誰にかけた感謝の言葉なのか自分でも分からなかったけれど、また繰り返した。


「ありがとう…」


そして流水は、永遠の眠りについた。