氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】

晴明には氷雨の変化が手に取るように分かっていた。

星を読み、十二神将をも使役する晴明は、万物を司る四大英霊のひとつである水を完全に掌握して使い方によっては最強ともなり得る力を得た氷雨に憧憬を抱き、朧の肩を抱き寄せた。


「朧、あの男を逃しては絶対に駄目だよ。手玉に取って夢中にさせて骨抜きにして、腹の子を必ず無事に産み落としなさい。私も協力するからね」


「元からそのつもりですけど…お祖父様、急にどうしたんですか?」


「新たな力を得ている。声なき者の声を聞けるようになり、今まで得られなかった力を得ている。ほら、見ていなさい」


氷雨の変化は朔も流水も気付いていた。

背筋をぞくりと震わすものがあり、氷雨の真っ青な目の中に氷の結晶のような光がたゆたっていた。


「さあ、来い」


囁くような氷雨の声に導かれるように一歩前進した流水は、あの振りかぶっている真っ白な刀に斬られたならば、ただでは済まないと分かっていた。

だが足は勝手に動き、朔は流水に道を譲って天叢雲を鞘に収めた。


「あれ以上強くなるつもりか?」


氷雨を師と仰いで切磋琢磨してきた朔はまた超えられぬ壁を目の前にして不敵に微笑み、吸い込まれるようにして氷雨ににじり寄る流水の背中を見送った。


氷雨は動かない。

雪月花の声だけを聞いて推し量っていた。

流水がーー痛みを感じず、幸せな幻を見て命を散らすその時機を、推し量っていた。