氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】

氷雨がそうして精神集中している間に襲いかかられてはたまらないため、朔は音もなく天叢雲を抜いて流水に肉迫した。


「以前俺に会いに来たな?」


「さあ、忘れた」


「お前がそうなったのは俺にも責任がある。だが望は今のお前にはやれない」


「あれの父親は俺だ。他人が口出しをするな!」


刀を振りかぶって向かって来た流水を躱しつつ、氷雨が自発的に幻を見せることができるか否かが争点だった。

雪月花の幻は今まで制御できず、またそれを真剣に試したこともないだろう。

十六夜と氷雨が出会った時すでに雪月花を顕現させていたらしいが、あの幻には氷雨と対峙したことのある者全てが苦心していた。


「雪月花…お前の真の力を俺に示してくれ」


まだ雪月花を完全に御しきれてはいないーー

鍛錬不足でまだまだ修行が足りないから見せたい幻を見せることができないのだろう、と考えていた氷雨は、未だかつてない集中をしていた。

その間朔を守れず無防備にさせてしまうが、天満や晴明も居る。

仲間が居ることがとても心強く、我が身を委ねることができた。


「よもや百鬼夜行の主と刃を交えることになるとはな」


「お前は何かの罪を犯したわけじゃない。だから命を助けてやりたい」


「ふざけるな!俺はあれを殺して…殺してそして…」


朔の目には、流水の三白眼に浮かぶ後悔の色が見えていた。

傍に居れたならばこんなことにはならなかったはずだと自身を責めていることにも気付いていた。


生きる気力がないーー

けれど氷雨がうまくやれればーー


「殺す!殺してやる!」


この血を残してはいけない。

その一心でまた刀を振りかぶった。