氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】

完全に気配を絶つことに成功していた流水は、小鬼を草むらに隠した後綾乃が倒れ伏している場所まで戻って物陰から様子を窺っていた。

最初に現れたのは――真っ青な髪に真っ青な目をした美しい男だった。

容姿から雪男だと分かり、まだ息のある綾乃と何かしら言葉を交わした後…絶命した。

ぎり、と歯ぎしりをした音が聞こえたのか、雪男が背後側に居た流水を振り向こうとした時――さらなる強大なる妖気に身が竦んだ。


「なんだこの惨状は」


「分からないが…この赤子は生きてる。どうする主さま」


それは俺の子だ、と言いたかったが、次いで現れた男のあまりの美しさに目を奪われ、声が出なかった。


「朔兄様、連れて帰りましょう」


共に現れた女もとても美しく、流水は彼らが何者であるか察すると――急に恨み辛みが競り上がってきて、叫ぼうとした。


お前にすぐ会えたならば、こんなことにはならなかったはずなのに――!


「可愛い…。この子半妖ですね」


「俺たちと同じだな。とりあえず連れて帰るしかない。生き残りはこの赤子だけだから」


待て、と言いたかったけれど、やはり声が出なかった。

彼らは急速にその場から去って行き、残された流水は、死んでしまった最愛の女の傍へ寄って膝をつき、まだ温かい手を摩った。


「綾乃…俺がもう少し早く帰って来ることができたならば、こんなことにはならなかったはずなのに」


そう言いつつも、百鬼夜行の主にすぐ会うことができて、そして許しを得たならば、綾乃と赤子と三人であのきれいな町に住めたかもしれないのに。


でももう、今となっては、絵空事だ。

もう、何も叶わない。


何も、何も――