氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】

機織りの腕前が上がった綾乃の織る反物などは、高値で取引されるようになっていた。

食うものにも困らなくなり、村八分にされて冷遇されていた綾乃を徐々に受け入れてくれる村人も多くなった頃――兆候は表れた。


「綾乃…少し痩せたか?」


「最近少し食欲がなくて。でも大丈夫です」


…痩せたというのに何故か少し嬉しそうな綾乃を訝しんだ流水だったが、なるべく長く――なるべく生きてもらえるように極力長時間での接触を避けていた。

そのため数ヶ月会わないこともあり、久々に綾乃に会った流水は、綾乃の微小な変化を感じ取っていたものの、また距離を置くためすぐにでも出発するつもりで踵を返した。


「次は…いつお会いできますか?」


「…分からない。だがまた会いに来る」


「約束ですよ、必ず。次お会いする時は…ふふふ」


「…?」


含み笑いを浮かべた綾乃に小さく笑みを返して家を出た。

今までずっと流浪の旅をしてきたけれど、ひとつの場所に留まりたいと思ったのははじめてのことだ。

けれど、それは叶わない。

人と契りを交わしてしまった以上――恋をした以上、叶わない。

鬼憑きとして生まれたことを悔やんだのも、はじめてのことだった。


「次は…ふた月ほど空けよう」


痩せていたのが気がかりだった。

それがもし自分のせいだったらと思うと怖くて、会いたいのに会えない。

歯噛みする思いで時を過ごすのはとても堪えたけれど、また少し時を置けば会える――そう自身に言い聞かせた。


――そうしてふた月が過ぎた時、綾乃の住む村を訪れた流水は、すぐある変化に気付いた。


「…え…?」


綾乃の家の前で立ち尽くす。

中から聞こえる声に、足が竦んでいた。