氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】

兄たちと氷雨がとても落胆していたことに朧も胸を痛めた。

望と自分の心配ばかりかけて俯いていると、氷雨にこつんと頭を叩かれて顔を上げた。


「心配すんなって。他にもきっと方法があるからさ」


「…はい…」


――細心の注意を払って肌に触れないようにしてくれているけれど…

逆にどうしても触れてみたいという欲が競り上がってきていた。

どうしてこの男がこんなに気になるのか分からない。

分からないけれど、その髪の色、目、唇、大きな手…全てが気になって仕方がなくて、自身の体調よりもそちらの方がきになって集中できなかった。


「よし着いたぞ、朧を寝かせて来る」


朔たちは居間に向かい、氷雨は朧を横にさせるため違う部屋へ向かっていた。

氷雨はあまり朧の顔を直視しないようにしていたのだが、朧はちらちらこちらを見てくる。

意識されているのだと分かってはいるが、敢えて少し距離を取った態度を取っていた。


「これ晴明の薬な。飲んだら眠たくなるからゆっくり寝るといい」


「あの…私が寝るまで居てもらっていいですか?」


「あー、うん、いいけど主さまか天満の方がいいんじゃね?呼んで来…」


「いえっ、雪男さんでいいです…」


朧が寝る時は望は引き離している。

氷雨は薬を一気飲みして横になった朧に掛布団をかけてやると、その傍に座って子をあやすようにぽんぽんと胸元を叩いた。


「分かった。じゃあここに居るよ」


「ありがとうございます」


ふわっと微笑んだ朧に笑みを返した。

そうしながらも、今後どうすればいいか必死に考えていた。