ここに来て望の様子が少しおかしくなった。

絶えずそわそわして落ち着きがなく、しきりに朧を求めて高い声を上げる。

衰弱している朧には休養が必要なため、代わりに天満が離乳食を与えたりあやしたりしてなんとか落ち着かせていた。


「様子がおかしいな。外のあれの存在に怯えているのか?」


「それは有り得るな。雪男、俺が百鬼夜行に出ている間目を離すな」


「了解、十分注意するよ」


おいそれと百鬼夜行を休むことのできない朔が鬼陸奥で合流した百鬼たちと出て行くと、天満はぎらぎらした目つきで氷雨を睨んでいる望の両目を片手で覆い隠した。


「敵対心を持たれてるみたいだね」


「俺が朧の傍に居るとすんげえ泣くし、恋敵と思ってるのかもな」


「ふうん、こんなに小さくても男は男ってこと?とりあえず家の中に居れば安全だから、夕餉でも食べようか。酒を飲みながら」


「おう、晩酌してやるよ。朧もお前と話したいだろうからそろそろ起こしてくる」


朧を起こしに行った氷雨は、すでに起き上がっていた姿を見て手を添えながら立ち上がらせた。


「天満が一緒に夕餉食おうって。食欲ないだろうけど、ちょっとでも食った方がいい」


「嬉しい。頑張って食べます」


居間へ入るなり揺り籠に寝かせられていた望が手足をばたつかせて喜び、傍に座った朧は小さな角を優しく撫でた。


「氷雨さんや天満兄様を困らせたら駄目だよ。大人しくしていてね」


「あーあー、うー」


大きくなった望を抱く力もない朧のために座椅子を用意した天満は、用意した色とりどりの料理を手際よく小皿に取り分けて朧に手渡した。


「さ、食べよう。ゆっくり食べてね」


――皆の優しさが温かい。

朧は力を蓄えなければと頑張って沢山食べた。