「厄介ごとを持ち込んじまって悪いな、天満」


「いやいや、可愛い妹にまた会えたんだから歓迎だよ」


天満の家には氷雨、朔、天満による三重の結界が張られた。

そのため鼠一匹入ることもできない厳戒態勢になり、朧を別の部屋に寝かしつけた後、天満の膝に座ってじっと黙っている望を皆が見つめた。


「この子の父なんですか?」


「幽玄町からここまで付け狙ってきたんだから関係者であることは間違いないだろう。ここに侵入はできないだろうが、泉までついて来られては厄介だ」


「ここで片付けておくか?」


氷雨がそう提案したものの、朔は少し考え込んで首を振った。


「下手に刺激するのは逆効果かもしれない。あちらに何の意図があるのか知りたいが…」


ふうんと呟いた天満は、氷雨を目の敵にしているような目つきで睨んでいる望の頭をぽふっと叩いた。


「父様は殺そうと思ったでしょうね。…朧の記憶や生気を食っているとか」


「ただの人のように風邪を引いたり寝込んだりしているんだ。ひとりじゃ満足に歩けなくもなってる。俺の存在も…希薄になってる」


「それは大問題だね。朔兄、僕も同行していいですか?」


「ん、それは心強い。一緒に来てくれ」


ふわっと笑った天満の頭を朔と一緒に代わる代わる撫でた氷雨は、戸を開けて庭に下りると、大きく伸びをして自然体を装いながら気配を探った。

…やはり、居る。

殺気ではないがじっとりと湿ったような気配を察知した氷雨は、室内に戻って戸を閉めた。


「居る。ここまで追って来るとか執念深い奴だな」


朔と天満の前にはどんなに強い妖だったとしても、一瞬で屠ることができるだろう。

そして自分自身も、敵が歯向かってくるならば――手加減するつもりはなかった。