鬼陸奥へ出向くことを事前に文で伝えていたため、鬼陸奥の結界を越えた出入り口には天満の姿が在った。


「朔兄、いらっしゃい」


「ん、少し世話になる。朧の面倒を見てやってくれ」


「はい。朧、よく来たね。身体はきつくない?」


――三男の天満は朔と次男の輝夜のちょうど中間に値するような柔和な美貌を持ち、性格も極めて明るい。

朧が産まれた時から天満は鬼陸奥に住んでいたため数えるほどしか会ったことのない朧は、氷雨に抱きかかえられ、そのまま天満の腕に抱きかかえられて背中に腕を回した。


「天満兄様もお元気そうで良かった」


「僕はいつだって元気だよ。準備してあるから家に行こう。お祖父様から薬も届いているからご飯食べた後それを飲んで寝るんだよ」


…やはり甲斐甲斐しい。

移動しながらそれを笑っていると、天満がふと立ち止まった。


「?」


「気付いたか。あっちに気付かれたくないから知らないふりをしていろ」


望は銀の脇に抱えられて運ばれていたのだが、知らない環境に置かれてずっと泣き続けていたものの、疳の虫封じの札を身体に貼っていたため、泣き声は聞こえなかった。


「あれが原因ですか?」


「そうだ。予想では恐らくあれの父だろう」


「取り返そうと追って来たとか?」


「分からない。だが幽玄町を発ってからすぐ何者かの気配は感じていた。今の今までずっと都の外で俺たちが動くのを待っていたんだろう」


「ああそれはなかなかの執念ですね。気を付けなきゃ」


「お前の腕を期待しているぞ」


朔に頭をぐりぐり撫でられた天満は、にこっと笑いつつ銀の脇からひょいと望を奪い取って額に生えている角を撫でた。


「よーし、笑わせてやるぞー」


警戒態勢は解かないまま天満の家に入り、強固な結界を張って相手の出方を待った。