氷雨は最近百鬼夜行に帯同することが多くなっているため、急いで庭に下りた朧は、集結した百鬼の中に氷雨の姿を見つけて裸足のまま駆け寄った。


「氷雨さん」


「ん、どした?足取りふらついてんじゃん、縁側に…」


「今夜も百鬼夜行に行くんですか?」


「あーうん、なんか用でもあるのか?」


氷雨は普段百鬼夜行にはついて行かないし、自分から離れたがっているのだろうかと思うと少しの苛立ちと不安を覚えた朧は、袖を強く掴んで背伸びをして顔を近付けた。


「今夜は行かないで下さい」


「へ?」


「お前は今日は要らない。明日に備えてゆっくりしていろ」


朔に要らないと言われて肩を竦めた氷雨は、朧に袖を引っ張られたまま縁側から中に入ると、長い廊下を朧の少し怒った背中を見つつ歩いていた。


「なんで怒ってんの?」


「…氷雨さんが私を放っておくから」


「や、だって望が傍に居るとあいつ泣くし…」


「それでも!私と一緒に居たいって言って欲しい」


…妙な我が儘を言われて何があったのかと考えている間に客間に引っ張り込まれた氷雨は、襖を後ろ手で閉められて冗談半分に我が身を抱きしめて縮こまった。


「手籠めにでもするつもりか?」


「当たりです」


「はっ?あの…朧さん?」


「私のことは飽きたんですか?もう…抱きたくない?」


――暗がりの中朧の目が青白く光っていた。

そういえばここ最近ずっと朧を抱いていないなと思い返したものの、望の存在が邪魔をしてその気になれないでいた氷雨は、頬をかいて困り顔になった。


「飽きてないし抱きたくないとも思ってねえけど…」


「じゃあ…ここで私を抱いて下さい」


自ら帯を外して少しずつ真っ白な肌を晒してゆく朧の艶めかしい姿に、目が疼いた。


「なんで急に…」


「あなたのことを忘れたくないし、この身体と魂に刻み込んでおきたいんです。嫌じゃなかったら…私を見て。その手で抱きしめて」


もちろん、その誘惑に逆らえなかった。

この世で一番大切な女だから。