時々氷雨が誰だか分からなくなる。

すぐ最愛の男だと思い出すものの、きっとその時の自分はぽかんとした顔で氷雨を見ているのだろう…氷雨はいつも少しはにかんで黙っていた。

その原因が望だと言うのならば、さすがにそれは…きつい。

朔たちが準備を進める中、朧は望を膝に乗せて言い聞かせていた。


「なんにも怖くないからね。これからもずっと一緒だよ」


「あーうー」


望は掴まり立ちであれば立つことができるようになっていた。

ただ――望と目が合ったりその身体に触れると、急に眩暈がしたり身体の力が抜き取られるような感覚に陥ることがあり、これが鬼憑きの力なのかと思うとうすら寒くなった。


「ねえ望…氷雨さんは私の大切な方なの。私は氷雨さんをこれ以上困らせたくない。でもあなたのことも大切。だから少しだけ我慢してもらうこともあるけど、私が守ってあげるからね」


望がじっと見上げてきた。

その目の奥に螺旋のような光が見えて、また眩暈を感じて身体が揺らぐと、少し離れた場所で様子を窺っていた如月が咄嗟に駆け寄って身体を支えた。


「朧、少しずつ触れ合う時間を減らしなさい。そのままでは本当に参ってしまう」


「如月姉様…」


「雪男の存在を希薄に感じることが多くなっているんだろう?…あれとお前は奇跡の存在なんだ。あれを繋ぎ止めておきたいのならば、心を強く持ちなさい」


頭を撫でられた朧は、望を揺り籠に乗せてゆっくり立ち上がった。


「私…氷雨さんを捜して来ます。その間望を…」


「いいよ、行っておいで」


――もうどれだけの間、触れ合っていないだろうか?

その温もりを確かめるため、足が萎えそうになりながらも氷雨を捜し求め歩いた。