望が異常な速さで成長するにつれ、朧は衰弱していった。

外見に何ら変化はないものの、内面では劇的な変化が起きていて、楽観視できない状況になっていた。


「鬼憑きは数が少なく文献もあまり残されていない。けれどもやはり…殺せば朧が回復する可能性は高い」


「では…」


朔が声を潜めると、晴明は小さく首を振って扇子をぱちりと鳴らした。


「憑かれている以上無理に引き剥がすのは困難だよ。そうしたならば、朧の心が破壊されかねないからね」


ーー八方塞がり。

今も朧は衰弱しつつ望の世話を続けており、一見本当の親子のように見える。

ただし氷雨が近寄ると、独占欲があるのか激しく泣いたりして、ふたりの時間はあまり無かった。

…だからこそ氷雨は仕事に打ち込み、望が寝ている隙を見て朧に会いに行くーー奇妙なことになっていた。


「…妖を捨ててはどうかな」


「どういう意味ですか?」


「十六夜がかつて息吹と夫婦になった直後、人を食ったことがあるのは知っているね?」


「はい、食っても食っても痛みがなく元通りになる女だとか」


「その特性を剥ぐために邪なるものを清める泉を探し当てて解決させたことがある。もし半妖である望から妖としての特性を無くすことができたならば…」


望はただの人になれるかもしれないーー

もし成功したならば、鬼憑きでなくなり、朧が解放される可能性が出てくる。


「今すぐ父様に訊いて来ます」


「うむ、朧は日々衰弱している故、早急に取り掛かろう」


光が見えた。