氷雨は女に異常に人気があった。

冷えた気性の多い雪男にしては愛想があり、腕が立ち、顔が良い。

ただ触れると互いに傷つけ合ってしまうため、どうすれば氷雨の心を奪うことができるのかーー朧がその難題を打ち破るまで氷雨に惚れている女たちはもやもやすることしかできなかった。

その氷雨が思い悩んでいるーー

果てには朔が幽玄町に布令を出し、人の世において万病に効くと言われているものを譲ってほしい、効果があればなんでも願いを叶えると通告した。

その日から普段朔たちの住む屋敷に近寄りもしない住人たちがこぞって押し寄せるようになり、布令を知った朝廷からも連絡が来るようになった。


「あのさあ主さま」


「なんだ」


「布令を出すまではいいとしてもさあ…連中の応対をするのが俺だけってどういうこと?」


「元々それがお前の役目だ。せいぜいその綺麗な顔を活かして少しでも良い薬や噂話があるか聞き出せ」


日々大量に届く文に目を落としたまま朔が鼻を鳴らすと、氷雨は口をへの字にしつつ縁側にちょこんと座っているものを見つめた。


「こいつは毎日大きくなってるし、もうひとりで座れるなんておかしいって。やっぱりこいつ朧の生気を…」


「それを殺したとして朧が元気になるとは限らない。それ以前に朧から止められている。鬼憑きはあまり性質が知られていないからお祖父様が調べて下さっている」


ーーその間に朧が力尽きたらどうするんだ、と言いかけそうになった。

記憶はどんどん曖昧になり、思い出しては忘れるを繰り返していた。


「じゃあ主さまの仰せの通り愛想を振りまいて来るか」


「しっかりやれ」


「一緒に…いや、とんでもない騒動になるしいいです」


何故か敬語になりつつ門の方へ向かった。