晴明の話によれば、望は鬼憑きの子で、恐らく父に似て魔性の特性が濃く出ており、対象物の生気や記憶を食うのだと言う。

殊更記憶に関しては対象物が強く執着していたり強く願っているものを好み、食らう。

つまり望は朧の記憶の中で大半を占めている氷雨という存在を食って‟無い”ものにしようとしているのだろう、と静かに語った。


「じゃあ…俺はいずれ朧に忘れられるってことなんだな?」


「私の推測が正しければ、そうなる。そして生気も奪われ続ける。外見に変わりはなくとも日々生気は食われ続け、いずれ人のように…いや、人よりも短い生を終えてしまうかもしれぬ」


「…やっぱりあれを殺そう」


――十六夜が立ち上がりかけた時、それを息吹が袖を強く引いて無理矢理座らせた。

先程飛び出していったことにものすごく怒って十六夜を叱った息吹の表情は笑顔がなく、鬼頭家ではこれが最も怖いこととされていた。


「座ってて」


「……」


「父様、殺す以外の方法で朧ちゃんが助かる方法は?」


晴明は腕を組んで深く熟考していた。

殺すという選択肢以外では方法以外ないと決めつけていたため、朧と望の共生関係がすでに確立されてしまって引き離せない状況になり、額を押さえた。


「可能性を見出すにはしばし時が必要だ。我らがそれまでの間に出来うることは、望が恐らく朧に対して無意識に食っている生気をどうにかすることだ。まあ…私にかかっていると言っていいのかな」


殺すということなら、誰でもできる。

だが殺さず何かしらの術を行使して止めさせることができるのは、晴明だけだ。


「晴明…そんなことできるのか?」


「皆の目を見なさい。皆が私に期待している。この世で最も優れた陰陽師として辣腕を振るおうではないか」


氷雨は深く息をついて何度も晴明の肩を叩いた。

晴明はそんな氷雨の腕をぽんぽんと叩いて肩を竦めた。


「そなたは朧に存在を忘れられようとも必ず傍に居ること。それを報酬としよう」


「分かった。必ず守る」


誓約は、成立した。