眠りから覚めた朧は、高熱で頭がぼうっとしながらも、またもや一瞬誰だか分からず、氷雨がはにかむとすぐまた記憶を取り戻してその膝に触れた。


「氷雨さん…」


「そんな顔すんなって。熱が全然下がらなくてさ、晴明が眠ることで体力を温存できるから眠った方がいいって言ってた」


「やだ…起きていたい…」


――このまま眠り続けていたら、それこそ近いうち氷雨のことを忘れてしまうかもしれない――

愕然とした不安がまた襲ってきてなんとか起き上がった朧は、背を支えてくれた氷雨に身体を預けて目を閉じた。


「私…どうしちゃったんですか…?」


「…まだ分からない。でもほら…お前が起きたら望も起きた。きっと何か関係があるんだ」


それは朧も薄々感じてはいた。

だが皆が望を邪険にする中理解してやれるのは自分しか居ないのだという思いと、氷雨との子であったらという投影が朧を執着させていた。


「氷雨さん…風にあたりたいから外に連れて行って下さい…望も一緒に」


「いや、望は置いて行こう。先代たちの前に連れてったら殺気に怯えるかもしれないだろ」


「そっか…そうですね…。望、大人しくしていてね」


氷雨に抱き上げられた朧を見るなり望が大きな口をあけて泣き始めたが、晴明の札によってその泣き声は聞こえず、胸が痛んだが、何より氷雨と居たかった。


「お前軽くなったな。息吹にお前の好きなもの作ってもらおう」


居間へ行くと、十六夜や如月たちが揃って笑顔を向けてきた。

皆に心配をかけてしまって申し訳なく思いながらも、不自由な身体を氷雨に預けてなんとか笑い返した。


「いい風が吹いてる。ここにちょっと座ろう。だけどまたすぐ寝るんだぞ」


「はい」


座椅子よりも氷雨に寄りかかって風にあたりたくてしがみつくと、氷雨は笑いながら朧を膝に乗せて座り、こつんと頭を小突いた。


「甘えたがりめ」


朧のためならなんでもしてやりたくて、朧の熱を感じながら一緒に風にあたった。