よろめいた氷雨の背を片手で支えた朔は、息吹に目配せをしてそっと氷雨に声をかけた。


「俺たちは外すから、お前が傍についていてくれ」


「…ん、分かった」


朧の顔は赤く、苦しそうに息を上げていた。

たまらず枕元で座った氷雨は、気配に気付いて薄目を開けた朧に顔を寄せた。


「大丈夫か、朧…」


「氷雨…さん……」


朧が手を伸ばしてきた。

反射的に身体がその手を避けそうになり、身体が硬直すると、朧は唇を噛み締めて氷雨の袖を握った。


「怖いの…?氷雨さんのその顔…見たことがある…」


――かつて想いが離れそうになった時――朧に触れるのが怖くて避けていたことがあった。

…あれからそんなに時は経っていない。

涙を滲ませて悲しがる朧にまた胸が痛んで、恐る恐るその手をそっと握った。


「…お前の手、熱いな。熱が高い」


朧の手は温かく…いや、熱く、けれどそれは氷雨に火傷を負わせる種類のものではなく、心からほっとして朧の身体を支えて起き上がらせた。


「着替えさせるから俺にもたれかかってていいぞ」


「氷雨さん…お願い…傍に居て…」


「でも俺がお前の傍に居ると望が――」


そう言いかけて揺り籠に目を遣ると、揺り籠には札が貼られていて眉を潜めた。


「なんだあれ」


「お祖父様が…望は駄々をこねて泣いてるだけだから、放っておけば泣き疲れて寝るから泣き声を聞こえないようにしてあげるってお札を」


「そっか。そりゃ気が利くな。…ん?あいつちょっと大きくなってないか?」


なんとなく望が大きくなっているような気がして揺り籠を覗き込むと、朧は引き留めるようにして氷雨の身体に腕を回して抱き着いた。


「ごめん、お前に集中するよ。ほら、力抜いて」


不安はまだ拭えない。

こんな毎日が続くのだろうかと思うと、自分が壊れそうで怖くて、けれどそれを見抜かれないようきれいに隠して朧に集中した。