戦の場に置いてその姿を見るだけで、恐れ戦く者が多かった。
通常は難攻不落の百鬼夜行の主の居住を守り、時折こうして百鬼夜行に随従しては主の盾となり矛となり――
幻を見せる美しき白い刀を振るえば一騎当千――尻尾を撒いて逃げる者も現れるほどだ。
朔は無心で次々と敵を屠る氷雨から目を離さなかった。
百鬼としてだけでなく、父のように兄のように慕っている男を本当の家族にするため、妹の恋を応援してようやく夫婦にさせて血縁者となったのに。
「雪男、あまりひとりで突き進むな。俺の出番がなくなる」
「主さまは毎日百鬼夜行やってるんだから少し休んどけよ。ああやっぱり…身体を動かすのはいいな」
何も考えなくていいから――という心の声が聞こえてくるようだった。
同じく随従している銀と顔を見合わせて氷雨を案じた朔は、白みかけてきた夜空を見上げて刀を鞘に収めた。
「深追いするな。…朧の体調がきにかかるから戻ろう」
「…戻りたくないな」
ぼそりと心情を吐露した氷雨の腕を掴んだ朔は、その横顔に本気の色を見て若干焦りながら首を振った。
「妹を恐れないでくれ。今は通常の状態じゃないんだ。原因が必ずあるから、一緒に探そう」
「…ん、そうだな」
完全に納得はしていなかったものの氷雨の同意を得て幽玄町に戻った朔は、縁側に居た十六夜から朧がまだ眠っていると聞いて眉を潜めた。
「熱もまだ下がっていない。咳き込むこともある。…一体どうなっているんだ?」
「今お祖父様が調べて下さっています。それを待つしか…」
「いっそのこと、あれを捨てて来たらいいのでは」
「如月…」
――傍に居た如月が険しい表情で唇をきゅっと引き結んで拳を握り締めた。
「私が朔兄様に頼らなければこんなことには…」
「如月、その件だがもう一度よく詳細を訊かせてくれ」
何故あの人里が気にかかったのか――
そこに着目して、表情を崩さない氷雨の肩を抱いて座らせた。
通常は難攻不落の百鬼夜行の主の居住を守り、時折こうして百鬼夜行に随従しては主の盾となり矛となり――
幻を見せる美しき白い刀を振るえば一騎当千――尻尾を撒いて逃げる者も現れるほどだ。
朔は無心で次々と敵を屠る氷雨から目を離さなかった。
百鬼としてだけでなく、父のように兄のように慕っている男を本当の家族にするため、妹の恋を応援してようやく夫婦にさせて血縁者となったのに。
「雪男、あまりひとりで突き進むな。俺の出番がなくなる」
「主さまは毎日百鬼夜行やってるんだから少し休んどけよ。ああやっぱり…身体を動かすのはいいな」
何も考えなくていいから――という心の声が聞こえてくるようだった。
同じく随従している銀と顔を見合わせて氷雨を案じた朔は、白みかけてきた夜空を見上げて刀を鞘に収めた。
「深追いするな。…朧の体調がきにかかるから戻ろう」
「…戻りたくないな」
ぼそりと心情を吐露した氷雨の腕を掴んだ朔は、その横顔に本気の色を見て若干焦りながら首を振った。
「妹を恐れないでくれ。今は通常の状態じゃないんだ。原因が必ずあるから、一緒に探そう」
「…ん、そうだな」
完全に納得はしていなかったものの氷雨の同意を得て幽玄町に戻った朔は、縁側に居た十六夜から朧がまだ眠っていると聞いて眉を潜めた。
「熱もまだ下がっていない。咳き込むこともある。…一体どうなっているんだ?」
「今お祖父様が調べて下さっています。それを待つしか…」
「いっそのこと、あれを捨てて来たらいいのでは」
「如月…」
――傍に居た如月が険しい表情で唇をきゅっと引き結んで拳を握り締めた。
「私が朔兄様に頼らなければこんなことには…」
「如月、その件だがもう一度よく詳細を訊かせてくれ」
何故あの人里が気にかかったのか――
そこに着目して、表情を崩さない氷雨の肩を抱いて座らせた。

